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- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 『ぼくのかぞく』 三年B組 グッチ・アーバン ぼくの家は八人かぞくです。 じいちゃん、ばあちゃん、父ちゃん、母ち ゃん、兄ちゃん、いもうと、おとうと、それ とぼくです。毎日とてもうるさくて、さわが しくてたまりません。 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
「じゃあ、これは今月の最後にある、父兄参観日までにきちんと書いておいてね。その日は、みんなに読んでもらいますからね」
授業終了の鐘と同時に響いた先生の声に、「えー?」とか、「はーい」とかの返事があった。ちなみにおれは「えー?」の方。前の席では「はーい!」という声。
「トール、何でそんなに嬉しそうな声で返事するんだよ?」
先生が教室から出て行った後、おれは前の席に向かって声をかけた。
「えー? 別に嬉しくないよ。ぼく、作文って苦手だもの」
「けど、今「はーい!」って返事してただろ」
「だって、返事はしっかりとしなきゃいけないんだよ」
「…………」
「あれ? グッチ、どうしたの?」
「いんや、何でもない」
おれの親友トール・ハーマンは、やたらと礼儀正しい。まあ、悪いよりはいいんだろうけど。そのおかげで調子を狂わされることがしょっ中ある。
「まあ、君達のような平々凡々な家庭を文章しなくちゃならないって言うのは、君達の頭脳ではかなり難しいだろうからねえ」
突然、イヤミな声がおれたちの間に割り込んできた。
「何だよ、デブ?」
「ぼくはデービス、呼ぶならデーヴだ。何度言ったら分かるんだい?」
呆れたように両手を広げながらデブ、もといデーヴが言った。でも、わざと言ってるんだって事には気付いてないのか、こいつ?
「僕も、作文を書くのは大変だよ。父上がお城の騎士だから、その仕事振りを書き上げるだけでも一苦労だからね」
デーヴはトールの机の上にドカッと腰をかけて少し斜め上を見上げながら、一人で話をしている。
こいつはとにかくカッコつけたがりで、家の自慢をしなくちゃ気がすまないという、何ともイヤミな奴。クラスで一番の嫌われ者だ。こういう奴には関わらないのが一番いい、んだけど……。
「うちのお父さんも騎士だけど、家で寝てばっかりだよ。どんな仕事してるんだろ?」
トールは本当に礼儀正しくて、こんな奴の話にもしっかりと受け答えをしてやる。だから、こいつはますます付け上がるんだよな。
「いいなあ、そんなにのんびりとできるなんて。僕の父上は休む間も惜しんでお城で働いているよ」
「でも、それじゃあさびしくない? 遊んでもらえないでしょ?」
「そんなのは、どうってことないさ。父上は僕の誇りだからね、なんていったって重装歩兵団第三団第五編隊の隊長だよ」
「へー、偉い人なんだ」
「まあ、それ程でもないけどねえ」
もっと褒めてくれとでも言いたそうな口調で、デーヴは高笑い。トールは本当に尊敬に近い眼差しをやつに向けている。素直って言うのはそりゃ良い事だけど、時と場合と相手によるんだぞ、トール。
「そんなに偉いお父上がいらっしゃるなら、お坊ちゃまのほうも少しは見習って頂きたいものだけれどね。一度でいいから、自分の自慢をしてみたらどうなの?」
そんなスカッとするような言葉を発したのはアニー。うちのクラスの番長だ。
「君なんかにそんな風に言われたくないね。それに僕にだって自慢できることなら沢山あるさ。ただ、クラスメイトの君達に余りに惨めな思いをさせてしまうのも可哀想だろ?」
確かに、このイヤミ製造機の口は自慢になるかもな。「なんか」呼ばわりされたアニーは、今にもぶちきれそうな表情をしてる。
「あ〜ら、それはぜひお聞かせ願いたいわね。例えば……その体重?」
多分、口の悪さはクラスで一番。学級委員長のリディアが笑顔でやって来た。デーヴの顔が引きつっている。
「トール、机から離れたほうがいいわよ。もう我慢の限界っていう感じだもの、机の脚」
「あーら、本当だわ。プルプル震えてる、机も生きてるのかしらね」
リディアとアニーの、デーヴ以上のイヤミたっぷりの口調と笑顔がいい感じだ。デーヴの冷や汗をたらした顔を見て、おれは笑いたいのを必死で堪えた。
デーヴはむっつりとした顔で、トールに何かを話しかけようとした。きっと二人へのあてつけの言葉を思いついたんだろう。
「トール君……」
「あ〜、本当だ。すごいねぇ」
けど、トールはアニーの横に並んで、ミシミシと音を立てている机の脚を見て感動していた。
トールはとことん素直で本当にいい奴だ。デーヴのその時の顔といったら……おれはとうとう堪えきれずに大笑いしてしまった。
「トールぅ、一緒に帰りましょ。今日は掃除当番じゃないでしょ?」
「うん。グッチ、帰ろ」
「おう!」
その後のデーヴの行動については、まあ、おれの知ったこっちゃないって感じだ。