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- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - ぼくの家は、かじ屋をしています。 じいちゃんも、父ちゃんもです。兄 ちゃんも後をつぐらしくてしゅぎょうをして います。 でも、ぼくは、後はつぎません。 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
「おーいグッチ、ちょっと店番しててくれ!」
「えー? 何でだよぉ!」
「城まで届け物があるんだよ。作業場にじいちゃんがいるから困ったら呼べばいい、頼んだぞ」
せっかく、おれが珍しく宿題に取り掛かろうとしていた矢先に、父ちゃんがそんなことを言った。くっそー、これでもう作文を書く気はなくなったぞ。授業参観までに書き上げてなんかやるもんか!
「……あーあ、ひまだ」
この世の中、店番ほど退屈なことは他にない。学校の授業も面白くはないけど、前の席にトールがいるから退屈はしない。店は、ただボーっと座っているだけで、お客の対応なんて今まで一度もした事がない。それくらいに暇な店で、よく商売が成り立ってると思う。
店の奥にある作業場では、兄ちゃんがじいちゃんに教わりながら何かを作ってる。あんな熱いところで汗だくになりながら、よくやってられるもんだよな。
その時だった。
「いらっしゃ〜い」
1人、とうとうお客が入ってきた。って言っても、おれより二つか三つ年上なだけか? 帽子を深くかぶってて顔はよく分からないけど男みたいだ。きっとお使いを頼まれたんだろうな、ご苦労様。
「切れ味のいいナイフなら、そっちの右っかわだよ」
「……別に、そんなんじゃない」
そいつはそう言うと、ボーっと店の中を見回していた。冷やかしにこんな店に来るのか? 変なやつだな。
おれは、まあいいか、と知らんぷりを決め込むことにした。別に、強盗とかをするわけでもないだろうし。
「……これ……くれ」
しばらくして、そいつはカウンターの上に店の品物をドンッと置いた。っておい、これって……。
「ちゃんとお金は払えるよ」
おれがびっくりした表情をするのを見て、そいつは少し不機嫌そうに言った。
「でも、これは小剣だよ。料理するんなら、やっぱりもっと短いナイフとかの方がいいと思うけど」
「剣とナイフの違いくらい分かる。わ……俺は、剣がほしいんだ」
「あ、はい」
そいつの口調には、有無を言わさぬ何かがあった。けどそれは、アニーやリディアとは少し違う。うーむ、なんだろう?
「いくら、なんだ?」
すっかり考え込んでしまったおれを、そいつがせっついた。
「え? ああ、金貨、六枚だけど?」
「あ、そう」
そう言ってそいつは無造作に六枚の金貨をカウンターの上に出した。おれの一年分の小遣いをあっさりと……何者だ、一体?
そいつはそのまま、小剣を自分のバッグの中に入れて店を出て行こうとした。そして、店の出入り口の所でいったん立ち止まってこちらを振り向くと、
「あ、どうも有難うございました」
と、ぺこりと頭を下げた。
「へ? ……あ、いえいえ。こちらこそ、どうもありがとう」
おれも思わず椅子から立ち上がってお辞儀をする。
「それじゃあ」
そうしてそいつは店から去っていった。
「……あやしい、あやしすぎるぞ」
しばらくしてから、おれはポツリと思わず呟いた。
顔を隠すように深くかぶった帽子。ぶっきらぼうな口調のくせに、やたらと礼儀正しい姿勢。それに、「あ、そう」っておれの一年分の小遣いをポンと支払った懐。あやしい臭いがプンプンするぞ!
はっ、もしかしたら秘密の地下組織か何かか!? くっそ〜、後を追いてえなぁ。楽しそうな冒険がおれを待ってるぜって感じだ!
……けど、店番なんだよなぁ〜。
「何だ、お前が店番してんの? 親父は?」
おれがカウンターをドンドン叩きながら唸っていたその時に、兄ちゃんが作業場から顔をのぞかせた。
おお〜! グッドなタイミングってやつだぜ兄ちゃん!
「今、城まで行ってる、届け物だってさ。おれも、ちょっと出かけてくるから!」
「で、おれに店番しろってのか? ──っておい、こらグッチ!!」
兄ちゃんに店番を任せて、おれは急いで店を飛び出した。小さいナイフをひとつ拝借して……一応、念のためだ。
けど、店から飛び出したはいいけど、あいつがどっちに行ったのかちっとも見当がつかない。とりあえず近所のおばちゃんたちに聞きながら、あいつの行ったらしい方向を追いかけてみる。
「あっちゃぁ〜」
やってきたのは中央大通り。こんなにでっかい通りじゃ、もう手がかりはまったく無しも同じだ。
「くそぅ」
名探偵グッチ・アーバンもこれじゃあ手が出せない。
「しゃあない、トールのとこに──」
「ぼくがどうかしたの?」
遊びに行こうかと思っていたら、そのトールの声がおれのすぐ下でした。
「お? トールじゃん。今から遊びに行こうと思ってたとこなんだ、お前は?」
「図書館に本を返して、これからグッチの家に遊びに行くところ」
おぉ、さすがは親友。考えることは一緒だねぇ。