おれと彼女と運命の出会い

*ウィンドウ内のどこでもダブルクリックすると、そこにメニューが移動します。

2

「あ。ねえ、さっきのってあの人じゃない?」
 見つけたのは、トールだった。
「本当だわ。どこかにコソコソ隠れてるかと思ったのに」
 アニーの言うとおりだ。今おれたちのいる場所は、王城通りを城とは反対に進んだ突き当たり、教会の前にある緑地帯。あいつはそこで一人座り込んでいた。
 眠ってるのか? 膝に頭を埋めている……なんか、余裕シャクシャクッて感じだな。
 おれたちの間に緊張が走る。そして、
「さ、あなたの出番よ。グッチ」
 リディアがそう言って、おれの背中を叩いた。
「えぇ!? 何でおれなんだよぉ?」
「何よ。せっかく情報提供者にいいところを持っていかせてあげようとした、あたしの心遣いが分からないの、あなたは?」
 だ、だけど、あいつは小さいのとはいえ、剣を持ってるんだぞ!
「そーよ。それに、私たちと会わないで、あんた一人であの人を追い詰めたときはどうするつもりだったの?」
 アニーの言葉はつっけんどんだ。
「ん……まあ、それは」
 ちっとも考えてなかった。
「ファイト、グッチ!」
 トールが両手に握り拳を作って、おれを応援する。
「よ、よっしゃぁ!」
 気合一発、男グッチ! 未来の勇者はおれ様だ!
 おれは勇気を出してそいつの元に近づいていった。
「お、おい。やい、こら!」
 そいつはその声に応えるように、顔をゆっくりと上げる。
「……え?」
「あっ!」
 そいつはジャケットの袖で顔を一回こすると、また慌てて逃げ出した。
「…………」
「グッチ、逃げたわよ!」
「追いかけましょう!」
 アニーとリディアがおれの横を走って通り過ぎる。
「グッチ、どうしたの?」
 トールがおれの服を引っ張った。
「……泣いてた」
「え?」
「泣いてたんだ、あいつ」
「……泣いて?」
 ほんの一瞬だったから、よく分からないけど、あいつは──。
「つっかまえたぁ。観念しなさい!」
 そのとき、アニーの嬉しそうな声が聞こえてきた。
「とにかく、行ってみようよ」
「ああ、そうだな」
 おれたち二人がアニーたちのところまで追いつくと、そいつの上にまたがったアニーが自慢げに振り返った。
「すっごいでしょぉ?」
「なに言ってるのよ、その人が勝手に転んだ上に、あなたが飛び乗っただけじゃない」
「何で言っちゃうのよ、せっかくトールにカッコいいところを見せられたのにぃ!」
「ま、いいわよ。とにかく、その帽子の下の顔を拝ませてもらいましょうか」
 リディアがそいつの帽子に手をかけ……そして一気に帽子を取った。
「あら?」
「あらら?」
「あれ?」
 三人が一斉にあっけにとられた声を出した。
 帽子の下から現れたのは、長くてきれいなこげ茶色の髪の毛。
「か、返してよ!」
 そいつは起き上がって、リディアから帽子を奪い返すと、髪の毛を束ねて帽子の中に詰め込んだ。
「……女?」
 しかも……かわいいじゃん。

   ◇ ◇ ◇

「もう、乱暴なんだから」
 そいつは少しふてくさった顔で立ち上がって、服についた草を払った。
「ごめんなさい」
 ぺこりと頭を下げたのはトール。
「……何でトールが謝るんだ?」
 乱暴だったのは、アニーとリディアだろ?
「そうよ、トールが謝ることなんてないのよ」
 アニーがトールの頭を撫でながらそんなことを言った。おお、珍しく自分の非を認めてる。雨でも降らなきゃいいけどな。
「そうそう、大体グッチがこの人のことを疑ったりしなければ、こんな事にはならなかったんだから」
「そういう事。悪いのはぜーんぶグッチなの。トールはこれっぽっちも悪くないのよ」
 こらぁ! 何なんだ、その結論は!
 やっぱりこの二人は、この二人なんだよな……絶対に自分たちが悪いなんて認めようとしないんだから。
「疑うって、わたしのことを?」
 怪訝な顔でそいつ……いや、その女の子がおれの顔をのぞき込んできた。
 こんな目の前で見ると、一層かわいいじゃないか。かわいい女の子というものに縁の無いおれは、思わずドキドキしてしまう。
「だ、だけど、誰だって疑うぞっ。こんな変装して、あんな高い剣を買って、おれたちのこと見て逃げ出して」
 おれはドキドキを抑えるために、一気に早口でまくし立てた。けど、息継ぎをするのを忘れて、余計にドキドキしてる。
「まあ、変装は女の子って分かったら、剣なんて売ってくれないんじゃないかなって思ったのよ。逃げたのは、あなた達がわたしの事を追いかけてくるからでしょう?」
「う〜ん、そうかも」
 おれだって、誰かに追いかけられたら逃げたくなるもんなぁ。しかも知らない奴なんて、気味が悪くて仕方が無い。
「それにしても、どうして剣を?」
 リディアがその子を見上げて聞く。
 珍しい光景だ。リディアは学年で一番背が高いから、おれはほとんどリディアが誰かを見上げて話すなんてのを見たことが無い。
「ちょっと、色々とあってね」
 彼女は秘密だよ、ってな感じで教えてくれない。
「ねぇねぇ。もしかして、これから冒険でもするの?」
「ん〜……冒険と言うよりは、探検って言うほうが正しいかしら」
 アニーの質問に答えてから、彼女はしまったという顔をした。おれたちはもちろん目がキラリと光る。
「大当たりじゃない、グッチ!」
 アニーは大喜びだ。当然だろ? おれは冒険の匂いだけはどんなことがあったって、間違えないぜ。
「大当たりって、どういうこと?」
「実は、このグッチがあなたのことをつけていけば、冒険にありつけるんじゃないかって言ってたの」
 ありつけるって……すごい言い方だぞ、リディア。
「へえ──あなたたちは、冒険が好きなの?」
「大好き! って言ってもね、一回しかしたことはないの。でもね、街の外に抜け出したりして、とっても楽しかったのよ」
「あたしは仲間外れにされたけどね」
「ぼくはお母さんにものすごく怒られた」
 彼女はその言葉にクスクスと笑った。
 でも、なんとなくさびしそうにも見えたんだけど、気のせいか?
「ねぇねぇ。で、探検って、どこを探検するの?」
 待ちきれないように、アニーが身を乗り出して言った。
「あそこよ」
 彼女が指差したのは、すぐ目の前。
「教会?」
「の、奥。墓地よ」
「ぼ……」
 トールが身震いした。トールは暗いとことか、お化けとかってのがすごく苦手なんだ。おれは、ぜんぜんへっちゃらだけどさ。
「でも、墓地なんて探検するような所でもないでしょう?」
 リディアの言うとおりだ。墓地なんて、誰でも入れるところだぞ。
「まあね。でも、余り人目に付きたくないのよ。忍び込むの」
「ほぉ〜、かっこいいな」
「格好良くなんてないわ。わたしは悪いことをするんだから」
 彼女はおれの言葉を厳しく注意した。スイマセン。
「ねえ、わたしたちも仲間に入れて?」
「だめよ。言ったでしょう? わたしは、したらいけない事をするの。教会の方に見つかったらただでは済まないのよ。知り合いでもないあなた達を巻き込む事なんて出来ないわ」
 ほほぉ〜、かっこいいなぁ。思わずおれは見とれてしまう。
「わたしはアニー・シルフィア、これはグッチ・アーバン、そっちがリディア・ハーマンで、この子がトール・ハーマンよ。後はあなたが名前を教えてくれれば、それで知り合いになるでしょ?」
 引き下がってたまるかってな感じで、アニーが間髪入れずにまくし立てる。でも、彼女はびっくりした顔で、全然関係ないことを口にした。
「ハーマン……? あなた達は姉弟なの?」
「違う違う、いとこよ」
「お父さんたちが兄弟なんだ」
 彼女はその言葉を聞いて、じっと二人のことを見てる。何がそんなに気になるんだ? 結構二人は似てると思うけどな。
「あ、そうだわ! トールのお父さんは、お城の騎士なのよ。何かあったって、きっと何とかしてくれるわ。ね、トール?」
「えぇっ? なんで?」
 アニーの突拍子もない発言はいつものことだけど、今回はまたとんでもない。
「騎士、なの? あなたのお父さんが」
「う、うん。一応は、そうみたいだけど……」
 彼女は、トールのことをずっと見ながら何かを考え込んでる様子だ。一体全体何だって言うんだ?
「……まあいい、分かったわ。わたしはジェシカよ。何があったって、知らないからね」
 何がいいんだか、何にも分からないけど、とにかくおれたちとジェシカの五人の探検隊がこうして結成された。