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「じゃあ、早速しゅっぱ〜つ!」
「じゃないわ。今入っていったら見つかってしまうから、六時になるまで待つの」
せっかくおれがかっこよく決めたところで、ジェシカがそう言った。なんだよぉ。
「ええー? 何で六時まで待たなきゃなんないの?」
アニーの不服はもっともだ、おれだって探険したくてうずうずしてるんだぞ。
「六時になると、一斉に食事の時間になるの」
「なーる……忍び込むには絶好のチャンス」
「そういうこと」
リディアは、悔しいけどおれたちより少しばかり頭の回転がいいもんで、ジェシカの良きパートナーの座にすっぽり納まってる。
今も、二人で忍び込む手段やら何やらを話し合っちゃったりしてる。
「なんか、わたしたちってノケモノにされてない?」
「なー」
「わたしが仲間になるのを上手く取り持ったんじゃないの」
「最初に冒険の匂いをかぎつけたのはおれだぞ」
ぶちぶち文句を言いながら、おれとアニーはふてくさって近くの木の根元に座り込んだ。
「……ひまだわ」
「まったく」
何もしないで、ただぼーっと座ってなきゃいけないってのは、おれたちの性分には合わない。仕方がないから、教会の上のほうに取り付けてある大時計を見上げてみる。
リディアとジェシカの、あーでもないこーでもないという話し声が、右の耳から入って左の耳へ抜けていく。
「ねえ……何分たったの?」
「いま、十分」
「あと、どれくらい待たなきゃいけないの?」
「後、一時間四十分」
「……長いわね」
「……長い」
おれはそう答えて、うなだれた。上ばっかり見上げてたから肩がこっちまった。
「なんか、つまんないわね」
「つまんないな」
「この間、三人で行ったほうが楽しかったわよね」
「楽しかったな」
アニーにはやたらとボコボコに殴られた気がするけど、楽しかった。途中で、おれは情けなくもアニーより先に気を失っちまったけど、楽しかった。
そう、おれと、アニーと、トールと三人で……って、
「トールは?」
どこに行ったんだ?
「あら、本当。どこに行っちゃったの?」
アニーもぼけっとした顔で、あたりをキョロキョロと見回す。
「トールぅ?」
「おーい、トール。どこだぁ?」
さっきまで、すぐそばにいるもんだと思ってたのに。
「とにかく、手分けしてさがしましょうよ」
「おうっ!」
って言っても、こんなに狭い緑地帯の中だ、あっと言う間にさがし終った。次におれたちは、緑地帯から出て、その辺を一周してみる。
「いた?」
「うんにゃ、こっちにはいない」
「もう。どこに行っちゃったのかしら」
アニーが不安そうにほっぺたを掻きながら呟いた。
まったく、トールはこんなに人が心配してるってのにいったいどこに……と思ったら、
「いたぁっ!!」
「えっ、どこよ──あ〜っ!?」
あんなところにいた!
「トールっ! あんたそんなところで何してんのよ!?」
アニーが大声で怒鳴る。声がでかすぎだよ、耳がキーンとする。
トールがいたのは、おれたちとは通りをはさんで反対側、高校と大学の正門の所だ。高校生だか、大学生だかの兄ちゃん姉ちゃんたちに囲まれている。
アニーの声に気が付いたのか、その兄ちゃん姉ちゃんたちは、トールに手を振って離れて行った。トールはそれを見送ると、何かを両手いっぱいに抱えてこっちに戻ってくる。
「お菓子、たくさんもらっちゃった」
えへへ、ってな感じでトールがにっこり笑う。くわぁ〜っ、こいつはぁ!
「バカ、勝手にいなくなったらだめでしょ! 心配したじゃないの!!」
アニーが髪の毛を逆立てそうな勢いでトールに向かっていく。うっへぇ……今までとはまた一段と違う雰囲気でおっかない。完全に切れちゃったのか?
「ご、ごめん。だって、リディアたちは何か話してるし、二人はボーっとしてるし、退屈だったからその辺を散歩しようかなって……」
「だったら、ちゃんとそう言ってから行ってよ! 私もグッチもあっちこっち探したのよ!」
「ごめんね。これ、二人の好きなお菓子もあるよ」
トールがそう言って差し出した腕の中には、おれの大好物の一つ、あげパンが……おれは、フラフラとそれに吸い寄せられる。
「ちょっとグッチ。何をあんたはエサに釣られてるのよ! トールだってそうよ。もしも、相手が変なおじさんだったりしたらどうなってたと思うの。こんなにのんきになんてしてられないのよ!」
「……はあ」
「それはちょっと話が飛びすぎじゃないか? いくらトールだって、そこまでバカなことはしないだろ」
それにトールはここにいるわけだし、しかもうまいもんを仕入れてきて。おれは、あげパンをトールの腕から取り出して、そう言った。
「そうじゃないでしょ! あんただって心配してたんでしょ? ……もういいわよ、知らないんだから!」
アニーはそういうと、木のかげのほうに走って行ってしまった。
「ごめんね、グッチ」
「いいって。けど、アニーもあそこまで騒ぐことでもないんじゃないか?」
「それが恋する乙女心ってもんなのよ。あ、これちょうだいね」
一体いつ側に寄ってきてたのか、リディアがひょいとトールの腕の中から何個かのお菓子を抜き取った。
「恋するおとめぇ?」
う〜ん、おれにはよく分からん。見てた感じ、どうしたって弟を叱る姉ちゃんって気がしたけどなぁ。ほら、トールもなんだか納得がいかない顔をしてる。
「とにかく、さっさとちゃんと仲直りしとかないと後が大変よ」
「あ。う……うん」
「ほら、とっとと行った行った」
リディアに背中を押されて、トールはあんまり乗り気ではなさそうな足取りだったけど、アニーのほうに向かう。
「はい、グッチはこっちよ」
おれのほうは、リディアに腕をつかまれて、ずるずると引きずられていった。