おれと彼女と運命の出会い

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「あら、二人はどうしたの?」
 ジェシカがきょとんとした顔でそう聞いてきた。
「痴話ゲンカよ。そのうち来るでしょ」
 リディアはそう言いながら、あげイモの入った袋を開ける。
「痴話喧嘩? あんなに小さい子達が?」
 ジェシカはさも意外って感じでそう言った。なに言ってるんだ?
「ほにょにょにゃ……」
「ちゃんと飲み込んでから話をしなさい、行儀悪いわよ」
 リディアの言うとおり、あげパンの最後のひとかけらをしっかり飲み込んでから、おれはもう一度言い直す。
「子供だからって、ケンカはするだろ? それに、ジェシカだってまだまだ子供じゃんか」
「それは、そうだけど。でも、痴話喧嘩って、大人の恋人がするものでなくて?」
「へ、そうなのか?」
 大人の恋人……どう考えたって、あの二人には無理がありすぎだ。今はもちろん、将来的にも無縁の世界だろ。
「じゃれあいよ、ただのじゃれあい。アニーがちょっと怒っちゃってるから、トールは謝らなきゃいけないの。理由はどうあれ」
 それなら納得がいくぞ。そう、理由はどうあれ謝らなきゃいけないのは、いっつも虐げられてるおれたちなんだよなぁ。くそぉ、今に見てろよ!
「ああ、そういうこと。それなら分かるような気がするわ」
 リディアの言葉に納得したようにジェシカが頷いた。この短時間でおれたちのそこまでを見抜くとは……ジェシカ、たいした奴だぜ。
「それにしても、いまどきの小学生って、そんな言葉も使うのね」
 感心した面持ちでリディアのことを見つめるジェシカ。でも、
「いまどきの小学生って、なんだ、その言い方?」
「ジェシカって、何歳なの?」
 リディアも変な顔をしてる。
「え? 十二歳よ、もうじき十三歳になるけど……何か、変なことを言ったかしら?」
「ってことは、去年まではあなただって小学生でしょ?」
「おれたちと四歳しか違わないのに、それはババクサイぞ」
 おれとリディアは思わず同時に突っ込みを入れる。
「え、そう? ……あ、そう、そうね。変よね、そんな言い方って」
 ジェシカはそれに対してそう答えると、一人で考え込んでしまった。なんだか、このボケてんだか真剣なんだか分からない発言の仕方は、何となくトールに似ている気がする。ただ、トールはその後に深く考え込んだりするような奴じゃないけどさ。
 それに、よく見ると、何となく顔もトールに似てるんじゃないか? トールとリディアが似てるのと同じ位にトールとジェシカも似てる。でも、リディアとジェシカはそんなに似てないな……あれ? なんでだ? ん〜っ、頭がこんがらがってくる!
「グッチ、なに唸ってるの?」
「ん? なんでもない」
「あっそ。でも、何か考えるんなら時間の無駄だと思うからよした方がいいわよ」
「うん。そうだな」
 リディアの忠告どおり、深く考えるのは無駄なだけだよな。やっぱりおれは頭脳労働には向いてない。

「おまたせっ!」
 しばらくして、アニーの声が聞こえた。左手にお菓子を、右手でトールの腕をしっかりと握ってる。トールは少し虚ろな目をして遠くを見つめたまま一声もない。
 あ〜あ……あれは当分、放してもらえないだろうな──気の毒に。