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「それで、ここにわたし達が通れるくらいの穴があるの。穴は板で塞がれているけれど、一枚板の上下を縄でとめてあるだけの簡単な作りだから、縄を切ってしまえばすぐに開けられると思う」
「ああ。それで剣が必要だったってわけか」
おれが言うと、ジェシカはにっこり笑って頷いた。おれは油断してたもんだから、思わずびっくりして顔をそっぽに向ける。
「で、教会の周りを囲んでる雑木林を抜けて、目的地までは一直線なんだって」
「なーに? それじゃあ難関はその一か所だけなの? あんまりやりごたえがないのね」
ジェシカの後をついで説明をしたリディアの言葉に、アニーはつまらなそうに鼻を鳴らした。
「行きは良いのよ。問題は帰り。どんなに急いで用事を済ませても、どうしたって三十分はかかると思うの。その間に、神官の方達も食事が終わっているかもしれないから」
ジェシカは別に、さっきのおれの態度を気にした風でもなく、地面に書いた見取り図を見ながら真剣な顔で話を続けた。
「それに、もしかしたらどこかに感知魔法が施されている可能性もないわけじゃないの。でも、わたし達にそこまでは分からないから」
「あー。そういえば、この前の時もそんなのがあったのよね」
アニーが思い出したように言った。そういえばそうだ。それのせいでおれたちは見つかったんだったっけ。
「無いことを祈るしかないってわけね」
「ええ、残念だけれどそういう事」
リディアの言葉に、ジェシカは本当に祈るように頷いた。
そこで、おれは基本的な疑問に気が付いた。
「しっつもーん!」
「はい、グッチ」
手を上げたおれをリディアが指さす。
「なんで、見つかんないように忍び込まなきゃいけないんだ?」
その質問に、いっせいに視線がジェシカに注がれる。
「あ、の……それは」
「見つかったら、探検にも何にもならないじゃない」
口ごもったジェシカの言葉をつないだのはリディア。まあ、そりゃそうだけどさ。何か秘密がありそうなんだよな、ジェシカって。
「はい、ほかに質問は?」
「あ、あのさ」
「はい、トール」
リディア。今度は、おずおずと手を上げたトールを指さす。
「ぼくも、行かなきゃ、だめ?」
「ダメ」
即答したのはアニー。
「え、そんなぁ」
トールが途方にくれた顔をする。なんか、今日のトールはそんな顔をしてばっかりだ。
「何か、用事でもあるの?」
アニーよりは、いくらか話せるリディアがそう聞く。
「別に、そんなのはないんだけど……でも、もう遅くなるし、夕ごはんの時間だし、遅くなるとまたお母さんに怒られるし。それに、お父さんとも約束したんだ。ちゃんと、自分で責任が取れるようになるまで冒険はしないって」
おぅおぅ、トールはいい子ちゃんだな。それに、親父さんもなんだかんだ言って厳しいじゃねえか。自分で責任を取るとか何とかなんて、うちの父ちゃんじゃ絶対に口にしないような言葉だ。
「ふーむ、なるほどね」
「それは、冒険じゃなくて探検ならいいってことでしょ?」
唸るリディアの横で、すかさずアニーがそう言った。
なるほど、アニーの言い分には一理ある。親父さんは冒険はするなって言ったけど、探検をするなとは言ってないってことだもんな。うん。
そこで、またおれは疑問が一つ浮かんだ。
「なあなあ」
「意見を言うときは、ちゃんと手を上げること」
「はーい、委員長!」
「……はい、グッチ」
「そもそも探検と冒険ってのは、何が違うんだ?」
シーン……誰も、何も言わない。
「とにかく、トールも絶対に行くの!」
「えぇ〜っ!?」
「わたし、無理強いは良くないと思うけど」
「トールは、いざって時に一番頼りになるの。絶対に連れて行ったほうがいいのよ!」
そして何事もなかったかのように会話は続く──おれの疑問は一体どこへ行ったんだよ、おい?
「でも、やっぱりトールの意思ってものも、たまには尊重させて上げなきゃいけないかもね。伯母さんが怒ると、うちのママ以上の怖さだもん」
「でしょ? だからぼくさ」
そのとき、ゴーンと大きな鐘の音が響き渡った。
「あ、時間になった。行くわよトール」
「だ、だからぼく──ねえ、リディア」
「……男なら、諦めも肝心よ」
「そんなのって、ありぃ〜?」
「ゴチャゴチャ言ってないで、とにかく私に付いて来ればいいのよ!」
わめくトールを引っ張って進むアニー、その横をそっぽを向きながら歩くリディア。
まあ、結局いつもの変わらない光景に納まったわけで、
「いいの? トールのこと」
っていうジェシカの心配は無用のもの。
「ああ、いいのいいの。どうせいつものことだから」
「そうなの?」
「そうそう」
わがままな女たちに振り回されるのが、おれたちのいつものこと……おれの将来も見えてるのかも。
ま、楽しいからいいんだけどさ。